2022年11月アーカイブ

mx20221128.jpg

 BSテレ東が7月末に放送した「武田鉄矢の昭和は輝いていた【義理人情の街・福岡博多の歌謡曲】」のなかで、フランク永井の歌う「中洲の夜」(1969:SV-811)が登場しました。その番組は、題目どおり、武田鉄矢のふるさとである福岡博多がテーマ。博多が利義人情に熱い街であることを、博多にちなんだ歌で紹介する趣向です。
 紹介された曲は次のようにたくさんあります。いかに人気の地域かわかります。

  ◇無錫旅情(尾形大作)◇筑後川(尾形大作)
  ◇函館の女(ひと)(北島三郎)◇加賀の女(ひと)(北島三郎)
  ◇博多の女(ひと)(北島三郎)◇中洲・那珂川・涙街(青江三奈)
  ◇黒田節(赤坂小梅)◇炭坑節(日本橋きみ栄)
  ◇千鳥橋渋滞(音源)(チューリップ)
  ◇京都から博多まで(音源)(藤圭子)

 後半では歌う映像はないのですが、博多を語るに是非ともあげたいという歌が紹介されます。

  ◇新博多どんたく(音源)(橋幸夫)
  ◇博多山笠(音源)(三浦洸一)
  ◇中洲の夜(音源)(フランク永井)
  ◇博多の女(ひと)(音源)(尾形大作)

 ここでフランク永井の「中洲の夜」があげられたのですが、武田が子供時代に耳にして、歌詞に大きな違和感を抱いたとのことでした。この歌では2か所に博多の言葉が使われていて、いずれも現地の人も耳には「変で」「地方を田舎扱いしているんではないか」と疑問を持ったということです。
 この歌詞は、実は5番まであって、間奏なしで歌われます。フランク永井の曲では「加茂川ブルース」を作ったコンビである東次郎作詞、吉田正の作曲作品です。

  1番で「あなた好いとう」はなさない
  5番で「またきんしゃい」とすがりつく

というところがあって、現地ではそんな風に言わないよ、とう話でした。武田と同じく博多出身の橋本志穂(元アナウンサー・タレント)も同じ指摘をしていました。ということで、番組では、曲を1番と5番だに切り取って、イメージ映像を重ねて流したわけです。
 武田と同年代の私も当時から何度も聞いていますが、博多を知らない私にしてみれば、はぁ、博多ではそんなことばがあるんだ、と感じました。なにより、フランク永井の歌唱が抜群で、歌詞はさておいて、見事に歌を完成させています。
mx20221121.jpg

 11月18日のBSテレビ東京「徳光和夫の名曲にっぽん」は、徳光プロデュースとして「ムード歌謡スペシャル」が放送されました。
 当日は人気上昇中の若い男性歌手4人が主役で、はやぶさのヤマト、三丘翔太、新浜レオン、青山新が出演して、ムード歌謡のカバーと持ち歌を披露しました。
 中でも、やはぶさのヤマトによる、フランク永井の名曲「ラブ・レター」を注目しました。
 当日は、司会の徳光が熱烈に好きだというムード歌謡を20代の彼らに歌わすという企画でした。彼らの声質や歌唱の特徴を考慮して、徳光がこれぞと思う歌を歌ってもらうというものです。
 「ラブユー東京」は、4人で歌いました。「城ケ崎ブルース」を青山新、「思案橋のひと」を三丘翔太、「今夜はオールナイトで」を新浜レオン&おかゆでデュエット。そして、「ラブ・レター」をヤマトが歌いました。
 彼らはそろって歌がうまい。将来に期待が持てます。
 青山はもっと積極的に自分を前に押し出した方がいいのではないのかな。自分にしかない特徴を印象付ける必要がある、などと思いました。
 三丘の歌唱は初めて聴きました。声がいいし、堂々としているし、あとは彼の声を前面に生かせる曲目が見出せるかといった感じです。
 新浜は何度か聴いています。彼は存在感が一番かな。押しもあるし。ヒットは、彼の印象とばっちり会う曲を得られるか。そしてその曲の求めに彼が正面から応えられるかにかかっているかな。
 そしてヤマトだが、全般的にはいい。だが、やはりそうとうの気負いがあってか、低音がやや無理に作られている感があります。それが、曲を重くしている。
 悲恋の曲なのだけれど、フランク永井はそれをさらりと、軽く、押しを抑えて歌っているが、このニュアンスを覚えればもっとよくなると言ったところかな。
 徳光は、平成令和の時代にこの曲を歌えるのはヤマトだと持ち上げました。歌が終えても絶賛しました。若い歌手にはこの司会の引き立てがたまりません。
 だから、徳光に代わって、彼がその場では水を差すようで口にできないことを、自由な私が言い添えてみました。彼らはこのブログは見ていないでしょうけど。

 徳光は長編歌謡浪曲にも若手を起用しています。彼のこのような企画は大好きです。ちゃらちゃらして、大人には落ち着かない曲が流行する中で、普通の成長した大人が聴いて静かに心を穏やかにするような日本的楽曲の普及を追及する方向を支持します。
 世知辛い現代では、若い歌手がムード歌謡を歌うというのはやはり流行らないのでしょう。だが、決めつけるよりも、現代なりのムード歌謡の世界はあっていいのではないでしょうか。
 絶望の中での絶叫、私的な感情を感じたとおりに一方的に語る、若者が目前の苦悩をとつとつと語り、同年代の共感を得る。
 このような現代での生きる難しさを吐露する今の歌の世界に、大人の感情の世界、大人の恋愛の世界、成熟した大人の、在る意味堂々とした、ゆとりと深慮ある心持をムードたっぷりに歌うものがあってもいいのではないでしょうか。
 歌は作り手がいて、歌手がいて、内容が時代の感覚とマッチし、庶民の求める穴を埋めてくれるときに、ヒットします。
 作者も歌手も頑張って欲しいと思うこの頃です。

 さて、この日の番組では、秋元順子が司会しているおかゆの作詞作曲による「一杯のジュテーム」を披露しました。
 秋本のバラードは最高ですが、秋元は歌がうまいのでおかゆ作品をどうこなすのか、興味を持って鑑賞しました。
 ずいぶんと難し曲だと感じました。さすがに秋本、内容を解釈しみごとに歌っています。だが、むしろ感心したのは作ったおかゆです。
 酒場ですでに亡くなったと思える相手を静かに思い浮かべながら、そっとお酒で唇をわずかに湿らす...。このようなシーンを、詩とメロディーにしていることです。
 おかゆがいくつも別名で曲を作っているのは知ってましたが、こうした曲を作り上げられるのに感心しました。底力を感じます。
mx20221115.jpg

 フランク永井の恩師吉田正の大全集は3つあって、1948年にビクターの専属作曲家になって、20年、30年、50年の節目で出されました。
 2つ目の30周年記念盤には、当時ビクターの売り出し歌手に吉田メロディーを歌わせています。
 フランク永井は、1969年に「吉田メロディーを唄う~誰よりも君を愛す」(SJX-17/CD:VICL-61401)を発売しています。ちょうど、この時期に発売された2つ目の大全集の11枚目の盤です。
 この盤について、10枚目のB面で吉田正ご自身が、若手の歌手たちに歌わせた曲、歌わせてみた理由や、できた歌の印象などを語っています。「華麗なる吉田メロディーの変身」ということで紹介しています。
 次の12曲です。歌った歌手とオリジナル歌手。

  ①有楽町で逢いましょう(相良直美)フランク永井
  ②好きだった(青江三奈)鶴田浩二
  ③舞妓はん(三善英史)橋幸夫
  ④異国の丘(松崎しげる)竹山逸郎
  ⑤潮来笠(殿さまキングス)橋幸夫
  ⑥いつでも夢を(平尾昌晃/畑中葉子)吉永小百合/橋幸夫
  ⑦恋と泪の太陽(ピンク・レディー)橋幸夫
  ⑧再会(岩崎宏美)松尾和子
  ⑨寒い朝(チュリッシュ)吉永小百合/和田弘とマヒナスターズ
  ⑩子連れ狼(西川峰子)橋幸夫
  ⑪おまえに(相良直美)フランク永井
  ⑫誰よりも君を愛す(森進一/桜田淳子)松尾和子/和田弘とマヒナスターズ

 ご覧のように、興味深い組み合わせです。聴いてみればなかなか、それぞれの味を出していると思います。いわゆる吉田学校の門下生でない歌手の吉田メロディーになっています。
 松崎の「異国の丘」はさすがに、彼の歌唱にあわせた編曲になっています。「恋と涙の太陽」はもとから彼女らにあわせて作ったかと思えるほどのできです。独特のこぶし回しの西川峰子は「子連れ狼」を見事に歌い切っています。西川については、まったく別のところで、石川さゆりの「津軽海峡冬景色」を歌っているのですが、なかなかのものでした。
 まぁ、いずれも異色の歌手の異色のカバーになっています。この盤でだけ聴ける(もしかしてアルバムになっているのかもしれませんが...)レア・カバー集ではないでしょうか。

 先述したフランク永井の「吉田メロディーを唄う」は傑作です。吉田門下生の第一人者が、恩師吉田正の曲を唄うのだから、当然かもしれませんが、フランク永井が歌うとまるでそもそも彼のために作られたのではと思えるほど、素晴らし曲になっています。
 元の歌手の素晴らしいところがあるゆえに売れた曲ですが、フランク永井が歌うとまた違う味がでるのがいいところです。盟友の松尾和子の曲も歌っていますが、これも印象的です。松尾とはゴールデン・デュエット盤でデュエットも歌っていますが、ここではソロです。
 収録曲を紹介しておきます。

  ①誰よりも君を愛す(松尾和子/和田弘とマヒナスターズ)
  ②グッド・ナイト(松尾和子/和田弘とマヒナスターズ)
  ③好きだった(鶴田浩二)
  ④再会(松尾和子)
  ⑤流れの舟唄(竹山逸郎)
  ⑥回り道(今日は遅くなってもいいの)(和田弘とマヒナスターズ)
  ⑦落ち葉しぐれ(三浦洸一)
  ⑧泣かないで(和田弘とマヒナスターズ)
  ⑨赤と黒のブルース(鶴田浩二)
  ⑩街灯(三浦洸一)
  ⑪東京の人(三浦洸一)
  ⑫夜が悪い(松尾和子)

mx20221107.jpg

 フランク永井の恩師吉田正。1921(T10)年1月20日~1998(H10)年6月10日)について、Wikipediaでは、次のように詳細されています。
 【生涯作曲数は2400曲を超える。都会的で哀愁漂うメロディーは都会調歌謡と称され、ムード歌謡から青春歌謡、リズム歌謡まで幅広く手掛けた。吉田が描いた曲風は吉田メロディー(吉メロ)と称される。また、鶴田浩二、三浦洸一、フランク永井、松尾和子、橋幸夫、和田弘とマヒナスターズなど多くの歌手を育て上げた、第二次世界大戦後の日本歌謡史を代表する作曲家の一人である】
 国民栄誉賞受賞を受賞しています。フランク永井が吉田正と会うことがなければ、やはり、フランク永井の歌唱は世に認められなかったかもしれません。それほど、恩師の眼力と一人の歌手の持つ個性的な歌唱を開花させたものは、天才的なものであったと思います。
 その吉田正は、ビクターから作曲家生活の20年、30年、50年という節目で、LP大全集をリリースしています。
 作曲した曲が2400曲と言われていますので、大全集と言いながらも、寄りに寄った(選曲に半年かかったとの記述)曲を集めたものです。20周年ではLP6枚で112曲。30周年では10枚に他の歌手によるカバーを1枚つけて112曲。50周年は同じく11枚で204曲を入れています。
 写真のように20周年記念では当時台湾にビクターの関連会社をもっていて、ここから独自に中国語版にし説明書をつけて盤を出しています。
 30周年では15曲入りの特別版もリリースしています。これは全集の付録のカバー盤がベースと思われますが、15曲微妙に異なります。
 50周年記念盤は、吉田正大全集と言えばこれで、現在ではCD盤で入手できるものです。

 いろいろとこれらの盤について紹介したいことはあるのですが、このいずれにも収録されているフランク永井の曲とは、いかなるものなのだろうという件を上げてみます。
 次の15曲です。次に多いのが橋幸夫の9曲ですから、ここからみても、恩師吉田正がフランク永井への曲の提供に打ち込んだことがわかります。

  ラブ・レター/加茂川ブルース/歌謡組曲-慕情/街角のギター
  好き好き好き/妻を恋うる唄/西銀座駅前/大阪ろまん/東京カチート
  東京しぐれ/東京午前三時/東京ナイト・クラブ(松尾和子と)
  霧子のタンゴ/夜霧の第二国道/有楽町で逢いましょう

 では、提供した他の歌手でいずれの大選集にも採用されている曲というのをリストしてみます。鶴田浩二、三浦洸一、松尾和子といった歌手へ提供した曲が目立ちます。

  いつでも夢を(橋幸夫、吉永小百合)
  おけさ唄えば(橋幸夫)
  おばこマドロス(野村雪子)
  カリブの花(三田明)
  グッド・ナイト(松尾和子、和田弘とマヒナスターズ)
  さすらいの舟唄(鶴田浩二)
  ロンドンの街角で(小畑実)
  哀愁の街に霧が降る(山田真二)
  花の三度笠(小畑実)
  街灯(三浦洸一)
  寒い朝(吉永小百合/和田弘とマヒナスターズ)
  泣かないで(和田弘とマヒナスターズ)
  江製子(橋幸夫)
  佐久の鯉太郎(橋幸夫)
  再会(松尾和子)
  殺陣師一代(橋幸夫)
  残侠小唄(橋幸夫)
  赤と黒のブルース(鶴田浩二)
  誰よりも君を愛す(松尾和子、和田弘とマヒナスターズ)
  潮来笠(橋幸夫)
  東京の人(三浦洸一)
  南海の美少年(橋幸夫)
  二人の星をさがそうよ(田辺靖雄)
  白い制服(橋幸夫)
  美しい十代(三田明)
  舞妓はん(三善英史)
  弁天小僧(三浦洸一)
  霧の中の少女(久保浩)
  夜がわるい(松尾和子)
  夜霧の空の終着港(和田弘とマヒナ・スターズ)
  勇気あるもの(吉永小百合/トニーズ)
  夕子の涙(三田明)
  落葉しぐれ(三浦洸一)
  恋と涙の太陽(橋幸夫)

 30周年盤には「華麗なる吉田メロディーの変身」という吉田正ご自身のトークが収録されています。これについては、次の機会に紹介したいと思います。

カテゴリ

月別 アーカイブ

このアーカイブについて

このページには、2022年11月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2022年10月です。

次のアーカイブは2022年12月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。