
フランク永井のカバーは昭和歌謡の中でも定評があると思います。フランク永井は「低音」で知られているが、彼の音域は広く、実は高音の魅力も欠かせません。
フランク永井の声の魅力は、低音から高音に一直線に伸びるところです。しかも、その発声に品を感じるところです。
宮史郎とか宮路オサムのようなだみ声はそれはそれで魅力ですが、フランク永井の丁寧な発声には品があります。フランク永井のファンはこの品を共通に感じています。
毎日、何曲もフランク永井の曲に聴き入る私は、つくづく、フランク永井に続く後継者が見いだせないのは、この品だなと思います。
さて、カバーに戻ります。カバーは何曲も歌っています。どれも素晴らしいのですが、聴いていて、これは秀逸だなと感じた曲を紹介してみたいと思います。
もちろん、私の個人的な見解です。作詞家、作曲家の意図をオリジナルよりも良く表現しているのではないだろうか(オリジナルはオリジナルで、優れているのは当然とし)、と感じた曲です。
最初は、田端義夫の「かえり船」(1945(S21)年)清水みのる作詞、倉若晴生作曲です。
田端義夫はバタやんで愛され、戦中から親しまれた歌手ですが、彼の代表曲でもある「かえり船」はいい曲です。
これは言うまでもなく、戦争が終わり外国から帰還する日本人(民間人、軍人)を輸送した船を歌ったものです。おのおのが戦争の体験を背負って、祖国に帰る。何年もあっていない親族、家族が帰着場で再会を待つ。
拭いえない戦争の影を持った曲です。バタやんはこれを独特の哀愁溢れる歌唱で歌い、たちまちヒットしたものです。
フランク永井はすでに「君恋し」でリバイバルを歌っていますが、その後の懐かしのメロディーのカバー・ブームの中で、1970年LP「上海ブルース」を発売しています。この中に、この「かえり船」を入れています。
このアルバムは、タイトルの「上海ブルース」を始め「港が見える丘」「明治一代女」「妻恋道中」「高原の駅よ、さようなら」「国境の町」「長崎物語」「泪の乾杯」「野崎小唄」「熱き泪を」が収録されています。
どれも完成度は高いです。フランク永井ののどの調子は絶好の時代であったこともありますが、中でも「かえり船」は味が出ています。
この曲はその後「ザ・カバーズ~魅力の低音再び2」(2015:VIZL-64439)でCD化されています。ぜひ機会があれば聴いてみてください。
「かえり船」といえば、昭和歌謡で忘れてならないのは「岸壁の母」でしょう。1954(S29)年菊池章子が発売しました。藤田まさと作詞、平川波竜作曲です。
1971年この曲は浪曲家の二葉百合子がアルバムでカバーしたのですが、あまりのファンの声の多さから翌年浪曲調のシングル盤を作りました。これが二葉百合子の代表曲までになり、現在に引き継がれています。
端野いせという実話があって、舞台や映画、ドラマになりました。戦争の悲劇、不幸の泪という側面を持ち、卓越した二葉の浪曲調歌唱は誰にもできない味をだしたのです。
今年も暑い夏を迎えました。戦争を根絶することを思いつつ、こうした歌を聴いています。
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