2017年1月アーカイブ

mx20170121.jpg
 その曲は「夜は恋人」と「フランクの夢は夜ひらく」。タイトルは「デラックス20 フランク永井~夜のムード」(1974:20CP-8031-PONY)である。ポニーのカセットテープ版である。
 この表面の出だしの2曲だ。驚くことに他18曲はビクターからさまざまなLPでカバー曲としてリリースされているが、ざっと聴く限りではこのテープの企画のために新たに吹き込みなおしている。別テークということで、別の魅力が引き出されている。
 ポニー版といえば、フランク永井データブック「フランク永井~魅惑の低音のすべて」で紹介したように「フランク永井~最新ヒット20を唄う」がある。このカセットも20曲すべてがカバーだが別テークであり、独特の味がでている。しかもこのカセットでも最初の曲は藤圭子の「命預けます」(カバー)だ。
 どの曲もフレッシュだが、2つのテークがすでにリリースされている石原裕次郎の「夜霧よ今夜も有難う」の3つ目のテークが楽しめる。
 
 カセットテープ盤というのは、40年ほど前には若者も年寄りもマイカーの必需品であった。どのレコード会社もEPやLPとともにカセットテープ版を多数だした。激しい販売競争で企画力が売り上げのキーになった。ポニーはビクター以外のレーベルで発売することがまずないフランク永井のものに着目し、紹介した2つのカセットを実現している。
 さてその歌だが、タイトルの夜のムードというテーマに沿った編曲にのって、そうした雰囲気がむんむんのものになっている。全曲ともそうだ。
 さすがにナイトクラブやキャバレーのBGMの帝王であっただけに、夜のムードを盛り上げる雰囲気づくりの歌唱がすばらしい。デートをカクテルと会話で楽しむカップルの邪魔をしない。いわゆる押しのないしずかな、癒しの唄い方だ。
 「夜は恋人」は中原美紗緒が歌った洋楽。「フランクの夢は夜ひらく」はオリジナルではなかろうか。作詞家麻生たかしの詩で「夢は夜ひらく」は聞いていない。他の歌手のオリジナルであれば「フランクの...」とはならないだろう。
 「夢は夜ひらく」はあまりにも多くの歌手が歌っている。先鞭をつけたのは園まりだったと思うが、圧倒的な印象を残したのは何といっても藤圭子だろう。
 「圭子の夢は夜ひらく」は若い髪の長いが笑わない美人が地獄の底を見たようなドスのきいた印象的な声で歌い上げた。全国ドサ回りでならしたこともあるが、その歌謡界への登場は誰をも驚愕させる。それ以来、○○の夢は夜ひらくというのが、つぎつぎと登場した。その後のカバーを含めたらレコードになったものだけでも百曲にもなるかもしれない。
 まさかフランク永井まで歌っているとは思わなかった。
 「夢は夜ひらく」はフランク永井の盟友でもある曽根幸明の発掘作品だ。曽根については彼自身が何冊か書籍を書いている。戦後の時代がよくわかる。歌謡界のリアルな実態をあからさまに表現している。ゆえに表現の自由といいながらも実際は徹底的な自己規制(出版コード)が支配している現代では閲覧が難しいのだが、同時代を生きてきたものにはバカみたいな話だ。
 曽根はビクターの重鎮作曲家の一人だが、藤田功名で歌も歌っていて、フランク永井とのカップリングもある。フランク永井には「恋のロマネスク」など5曲を提供している。幸明が康明としても提供していて、データブックを編纂した時点で同人であることの確認がとれなかったのだが、昨年「懐かしのフランク永井~シングル全集」が出されたタイミングで確認できた。曽根自身が「夢は夜ひらく」を愛まち子とのデュエット版で出している。
 別項で「上海帰りのリル」の根津甚八版が話題になったが、根津がこの「夢は夜ひらく」の根津版を歌っている。唄う歌手によって「夢」とその色合いがすべて違い、それらをこの機会に楽しむことができる。
 今回のカセットテープも、いつもフランク永井情報を教えてくださるAさんからの提供。時代の流れに埋もれてしまい、永遠に表に出えないようなような音源を豊富にお持ちで、発見があるごとにご連絡をくださる。大いなる感謝をこめてここに記させていただいた。
mx20170114.jpg

 昨年の番組だがちょっと取り上げてみたい。12月18日に放送されたもので、改め
て録画していたのを観てみた。
 この番組は落ち着いたナビゲーター國村隼のかたりと、丁寧な紹介で人気だ。こ
のブログでも何度か紹介している。今回は、昭和歌謡全盛時代を飾った代表的な二
人の作曲家ということで、フランク永井の恩師吉田正と、遠藤実に焦点を当ててい
る。
 二時間の特別企画ということだが、二人の作曲家が出せば大ヒットというのはど
のような理由があるのか、どのような時代背景があったのか、どのような動機があ
のようなユニークな曲を生み出したのかということで、二人の作曲作品だけでなく
昭和歌謡の時代を描いている。
 服部良一や古賀政男が日本の歌謡界を切り開いていった。それを引き継ぐ二人と
いうことで多くのその分野の作詞作曲かの代表ということで紹介されている。
 十分に見ごたえがある番組であった。
 何度も紹介されていることには違いないが、吉田正は招集されて戦争で大陸に赴
き戦闘、病気、シベリア抑留を体験する。多くの友の戦死や哀れを心に刻みつつ、
日本に帰還すると「異国の丘」をきっかけにビクターの専属作詞家になる。
 後に都会派ムード歌謡という分野を切り開いたといわれるが、もちろんそれは結
果であって、そうしたくくりでは表現しきれない様々な努力と挑戦の連続がある。
そのあたりが自伝、同期の証言などの記録から紹介されていく。
 吉田はシベリア抑留の体験の詳細を語ることはほとんどなかったが、その思いを
歌に全力でぶるける。「寒い朝」に結実していると筆者は思う。
 吉田正を語るときにフランク永井は欠かせない。この番組では歌う映像は極端に
少ないのだが、昨年にはじめて紹介されたスポニチクリエイツの「有楽町で逢いま
しょう」、映像無しで「東京ナイト・クラブ」が歌われた。
 遠藤実も同時代に大活躍した歌手。ビクター専属の吉田とは互いの尊敬を背景に
激しく競い合っていい曲を作り上げてきた。
 遠藤の経験した貧困は有名だが、それは当時多くの庶民の実情そのものであった
といっていい。そこから庶民がもつささやかな思い、刺激、望み、あこがれを人一
倍に受け止める。素朴な感覚と感情のなかにある美をえぐりだして表現している。
だから、歌の身近さ、歌いやすさは、後世に残る作品をつくりだした。
 島倉千代子の「からたち日記」、千昌夫の「北国の春」、舟木一夫の「高校三年
生」などいずれも魅力にあふれている。
 フランク永井が全国的に名を知られる曲になった「有楽町で逢いましょう」。こ
れは恩師吉田正が、それまでの苦悩と努力を結晶して生み出したものだ。作詞家で
あり盟友である佐伯孝夫のアイデアとひらめきがきっかけで生まれた。
 その提案にまっこうから応えたというところに吉田正のセンスが光る。そして、
現役コメンテーターとして登場した作曲家平尾昌晃が語っている。「メロディは簡
単につくれるけど、イントロを作るのはメロディの何倍も難しい。イントロから覚
えられる曲はなかなかない」と、教えられたが、その典型的な曲が「有楽町で逢い
ましょう」だと絶賛する。
 私も東京に山形の田舎から出てきたときに、当時の職場の同僚がこんな曲知って
いるか、と聞かせてくれたのがこのイントロだ。もちろん知っていたが、イントロ
が強くひきつけ、そのような表現をするほど印象的であったことを改めて知った。
 「有楽町で逢いましょう」のイントロが雨が屋根に当たる音から閃いて、これだ
と思ってできたということを本人が語っている。そこも含めて最初のモノラルSP
盤の編曲を担当したのは、佐野鋤(後に本名の佐野正美に変名した)だ。
 1962年ステレオ化の波を受けてヒット曲のステレオでの吹き込みなおしをしてい
るが、その際に吉田正がみずから編曲をし直している。佐野のピアノ音で始まるイ
ントロがバイオリン音とのかぶせになっている。いずれも印象的だ。オリジナルと
して紹介されるときは佐野版が多い。
 後のCD化の波ではステレオ版が多く出た。が、モノラルであってもオリジナル
をということが多くなり、使い分けられているようだ。
mx20170108.jpg

 謹賀新年。
 サザンオール・スターズの桑田佳祐。暮れに解散した話題のSMAPとならんでビクター・エンターテインメントの稼ぎ柱といえるサザン・オールスターズの桑田佳祐が、昨年暮れに発売したDVD「桑田佳祐ザ・ルーツ」。
 1978年「勝手にシンドバッド」で登場以来、その異色の歌唱が一気に注目をあび、かもしだす独特のムードが熱狂的なファンを魅了してきた。そのカリスマ的な根強さは圧倒的といってよいかもしれない。桑田がWOWWOWの特別企画で昨年「偉大なる歌謡曲に感謝~東京の唄~」番組が放映された。
 これがあらためてDVDで発売されて話題を呼んでいる。流行歌が彼の音楽のルーツという位置づけだ。流行歌が彼のファン層に複雑に入れ込んでいて、その後もコンサート企画〈昭和八十八年度! 第二回ひとり紅白歌合戦〉での収録もあり、3月に発売が予定されている。NHKでの桑田番組が組まれて紹介されている。
 「ザ・ルーツ」では、歌謡曲の代表格ともいうべき20曲収録されている(後者はNHK紅白で歌われた人気曲厳選55曲という豪華版)。特に「東京」にこだわった選曲。どの曲も誰もが知る昭和の名曲。多くの人に口ずさまれた曲ばかりだ。
 フランク永井ファンには嬉しいことに、「有楽町逢いましょう」と「東京ナイト・クラブ」が含まれている。東京ナイト・クラブは、原さんとのデュエット。
 先日は「あの人に会いまた」というBSの人気番組で井沢八郎が取り上げられていたが、ここでは桑田の「あゝ上野駅」がこのDVDから紹介されるなど、あまりテレビに登場しない桑田の露出も最近に多くなってきている。
 大好きな「車屋さん」まで入っているのにはおどろきだ。その時代確かに「東京」は日本中から集まった。東京は田舎からみたら知らない都市であり、流行歌で知るイメージが先行してその幻想が強いあこがれを生み出した。戦争でひどく破壊された生活からの復興をしゃにむに負った。幸い、特需など景気を押しやる要素が働いたこともあり、未来への夢と希望と活気があった。閉塞感が覆う今では想像もできないかも知れないが、そのような時代であった。
 大雑把ではあるがやはり「昭和歌謡」の力と光がそうした流れに大きな役割を果たしたのではないだろうか。桑田佳祐の歌を生み出す背景になったのは確かだろう。
 
 政治経済分野では世界的な地響きをとどろかせた2016年であった。
 2017年が始まったが、ただただ平和と安寧に向かうことを願うだけだ。未来の人びとに負担を負わせることや、自然を人為的に壊すことで豊かな恵みが得られなくなっていく方向が少しでも止められるように念じるだけだ。
 社会を曇らすこうした様相が多くの人びとにストレスを感じさせているが、それを癒し未来への希望と勇気を呼び起こすのが音楽の力ではないだろうか。今年もフランク永井が残した歌を中心にして、いろいろと考えてみたい。
 フランク永井が舞台を降りて30年を超えた。現在働き盛りの年代の方がたですらフランク永井の活躍していた時代のことは目で見ていない。ファン層は高齢化していく。避けえない自然現象で、次つぎと代が変わり新しい文化が出てきて、覆っていく。
 ファンとしては淋しさは禁じ得ないが、それでも今なお光を放っているその時代の多くの歌の力に注目したい。桑田佳祐のアルバムのことから始まり、まとまらないままだが、さまざまなことを思うめぐらしながらの年明けであった。
 「桑田佳祐ザ・ルーツ」収録曲は下記のとおり。
  01.東京の屋根の下/灰田勝彦
  02.あゝ上野駅/井沢八郎
  03.赤坂の夜は更けて/西田佐知子
  04.有楽町で逢いましょう/フランク永井
  05.ウナ・セラ・ディ東京/ザ・ピーナッツ
  06.東京ドドンパ娘/渡辺マリ
  07.車屋さん/美空ひばり
  08.すみだ川/島倉千代子
  09.たそがれの銀座/黒澤明とロス・プリモス
  10.東京ナイト・クラブ(原由子と)/フランク永井/松尾和子
  11.男はつらいよ/渥美清
  12.新宿の女/藤圭子
  13.新宿育ち( w/TIGER)/大木英夫/津山洋子
  14.紅とんぼ/ちあきなおみ
  15.北国の春/千昌夫
  16神田川/かぐやひめ
  17.東京砂漠/内山田洋とクール・ファイブ
  18.唐獅子牡丹/高倉健
  19.東京/桑田佳祐
  20.悪戯されて/桑田佳祐(ボーナストラック)
 
 写真左は、東京銀座マリオン前の「有楽町逢いましょう」碑。暮れからのライトアップで輝いているのを撮影してきた。